大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1790号 判決

被告人 海野留寿

〔抄 録〕

一、次に原判決が証拠によつて認定した事実によれば、被告人は兼岡弘造外一一名に対し、二時間にわたり威勢を示して、同人等の身体に害を加うべきことをもつて、これを脅迫したというのであつて、被告人の脅迫行為が二時間にわたつて行われた旨を認定してはいるけれど、その間、右兼岡弘造外一一名の自由を拘束したことを判示していないのである。してみれば、原判決がその判示事実に法律を擬するに、刑法第二二二条第一項をもつてし、同法第二二〇条第一項をもつてしなかつたのは、もとよりその所であつたというべく、原判決には論旨第二点(イ)において主張するような違法はない。なお、原判決が刑法第二二二条第一項を適用したのに対して、同法第二二〇条第一項を適用すべしと主張するがごとき所論は、被告人にとつて却つて不利益を招く主張であるから、控訴理由として不適法である。従つて、この意味からいつても同論旨は採用すべきものではない。いずれにしても、同論旨は理由ないものといわなくてはならない。

次に、本件起訴状に記載した脅迫の公訴事実においては、その所為の日時を昭和二九年七月一一日午後三時頃と表示したのに対し、原判決においてはこれを同日午後三時頃より午後五時頃までと認定したことは論旨第二点(ロ)において指摘するとおりである。しかし、その両者の事実は、基本たる関係において全く同一である。原判決と云えども、被告人が兼岡弘造外一一名に対し、威勢を示して身体に害を加うべきことを以て、これを脅迫したとするのであつてこれと起訴状記載の脅迫の公訴事実とが相異るものと見るべき跡は毫も発見し得ない。それ故に、原判決が起訴状記載の公訴事実と相異る事実を認定したとし、この見地に立つて原判決を攻撃する右論旨は、その前提において既に誤つているので当然理由ないものとして排斥するの外はない。

次に、被告人が判示協同組合の組合員の協議によつて、判示公民館における常会に参加することを拒絶されたことが、かりに、所論のように被告人の社交上経済上の利益を受ける機会を被告人をして失わしめるものであつて、これを被告人に対する不法な処置であつたとしても、被告人において判示のごとき脅迫行為に出ずることを許されているとするの理はどこにもない。被告人の判示脅迫行為をもつて権利行為なりとし、その違法性を否定しようとする論旨第二点の(ハ)の主張は、まつたく独自の見解であつて、もとより採用しがたい所論である。なお、原判決は所論の土地掘り返しだけをもつて被告人の脅迫行為として判示したのではない。所論のように土地を掘り返しながら判示のごとき言辞を弄し、因つて威勢を示して判示組合員等の身体に害を加うべきことを以て脅迫行為をした、とするのである。それで、原判決が判示所為をもつて刑法第二二二条第一項に該る脅迫罪を構成するものとして、被告人を処断したのは、まさに正当であつたというべく、原判決には右論旨にいうような違法の廉はない。従つて、該論旨は理由がない。

二、次に、原判決は被告人が兼岡弘造外一一名に対し判示脅迫行為をしたというのであるから、これに法律を適用するに当つては刑法第二二二条第一項の外、同法第五四条第一項前段第一〇条をも掲げるべきであつた。しかるに、原判決は事茲に出でず、唯、刑法第二二二条第一項のみを掲げ、被告人の判示所為をもつて、恰も包括的一罪の脅迫罪として処理したもののごとくである。とはいえ、右第五四条前段第一〇条をも適用したとしても、結局は脅迫の一罪として処断することになるのであるから、原判決のこの法律不適用の瑕疵は、未だ以て判決に影響を及ぼすべき違法なりと論ずるに値しないので、該瑕疵あるの故をもつて原判決を破棄するわけにはいかない。それ故に、この点を指摘する論旨第二点の二は理由がない。

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